様々なスポーツで使われ、世間一般にも知られるようになった「イップス」。
何となく意味は分かるけど、詳しくはよくわからないという方も多いと思います。
実際に、イップスに関してはまだまだ分からないことが多く、またどこからがイップスかという基準もあいまいなものです。
こちらでは、そんなイップスの原因や対処方法などをご紹介します。
イップスとは?
イップスとは、精神的な原因で思うようなスポーツパフォーマンスが発揮できなくなってしまう症状を指して言うことが多いです。
特に難しいスポーツ動作ではなく、簡単な動作急にミスしてしまうことを言います。
明らかに技術的な原因とは考えられないようなミス、トラウマになるようなミスの後に同じようなミスが続いてしまうなどの場合に、その症状が「イップス」と考えられます。
イップスとは?という明確な定義はどうやら無いようです。
ウィキペディアでは、イップスはこのように紹介されています。
イップス(Yips)は、精神的な原因などによりスポーツの動作に支障をきたし、自分の思い通りのプレーができなくなる運動障害のことである。本来はゴルフの分野で用いられ始めた言葉だが、現在ではスポーツ全般で使われるようになっている。
イップス - Wikipediaウィキペディアより抜粋
緊張とイップスの違いは?
精神的な原因で起こるものがイップスですが、精神的な原因であらゆる動作が上手くいかなくなるのは、何も珍しいことではありません。
小学生が行進で緊張してしまい、手と足が一緒に出てしまうというシーンは有名だと思います。
これがイップスかというと違うと思いますが、種類としては同じようなものです。
プレッシャーがかかり、本来無意識で出来るようなことが出来なくなってしまうという点では同じですが、似たようなことはスポーツでもよく起こります。
決めれば優勝決定という時のバスケのフリースローは、練習のフリースローと同じように打つのは難しいと思います。
これは、プロでなく草バスケなどアマチュアや遊び感覚の試合でも同じようなものはあると思います。
野球のピッチャーでも、カウント2ストライクから投げる時と、3ボールから投げる時のプレッシャーは違うと思います。
それも全てイップスかというと、違うと思います。
これも明確な定義はないですが、特定の動作が特定の状況で出来なくなってしまう状態がイップスと言えそうです。
野球ではキャッチボールは普通にできるが、ファーストへの送球だけ上手く出来なくなってしまった場合はイップスと言えそうです。
ゴルフでは、難しい長い距離のパッティングは普通に打てるが、短い距離の「入れて当たり前」のパッティングだけ上手く出来なくなってしまった場合はイップスと言えそうです。
明確な定義ではないですが、イップスについてまとめると
「心理的な原因により、特定の動作が特定のシチュエーションにおいてのみ、上手く出来なくなってしまう運動障害」がイップスと言えると思います。
イップスの原因
イップスの原因は、心理的な原因により起こります。
ただ、これだけではアバウト過ぎますのでもう少し詳しく見ていきます。
心理的な原因を一言で言えばストレスですが、過剰なストレスがイップスの原因の1つと言えます。
ただこれにプラスして、トラウマのような経験がプラスされるとイップスになりやすいと言えます。
例えば、簡単なパッティングを外して優勝を逃してしまった。
この時に応援してくれる人を裏切る結果になってしまい、賞金も逃した。
さらに簡単なパッティングを外したことで罵倒されてしまい、同じようなシチュエーションになった時に思い通りに身体が動かせなくなってしまった。
このような流れでイップスになることが非常に多いです。
その為、イップスはストレスが原因というよりもトラウマが原因という方が分かりやすいかもしれません。
また、心理的な原因だけではないイップスの原因も指摘されています。
それが、同じ動きを繰り返すことで脳が変化してしまい、その結果感覚が混乱してしまうという説です。
詳しいメカニズムが調べてもはっきり出てきませんでしたが、イップスになると「どう動かしていいかわからなくなる」ので、感覚が混乱するというのはしっくりくる表現です。
イップスの克服法で、フォームを多少変えるという方法があります。
実際にそれでイップスを克服している選手もいますので、同じ動きばかりを繰り返し過ぎたということも、イップスの原因の1つになり得そうです。
イップスになりやすい人
出来ればなりたくないイップスですが、「イップスになりやすい人」と「イップスになりにくい人」がいると言われています。
一般的には、まじめな人ほどイップスになりやすいと言われています。
・まじめに練習を頑張っている人
・自分のミスを攻めがちな人
・失敗をしては練習を繰り返す人
このような人はイップスになりやすいと考えられます。
ただし、これは明確な科学的な根拠がある訳ではなく経験的にイップスになりやすい人の特徴というイメージです。
悪いイメージができて、その悪いイメージを抱えたままの反復練習などはイップスを助長しているのかもしれません。
また、ミスを攻めるのは日本人に多い傾向です。
周りが責めるというよりも、責任感が強くて本人が自分を責めてしまう場合にイップスになりやすい傾向がありそうです。
イップスが多いスポーツ
イップスは元々ゴルフ用語だったと言われています。
ゴルフといえば、2大メンタルスポーツと呼ばれることもあり、メンタル面が非常に重要なスポーツです。
その為、このゴルフからイップスが生まれたというのは納得です。
ただ現在ではイップスはゴルフ用語ではなくスポーツ全般に使われるようになりました。
ゴルフともう1つの2大メンタルスポーツであるテニスや、野球などでもイップスは多いです。
こちらが、イップスが多いと言われるスポーツです。
・ゴルフ
・テニス
・野球
・ダーツ
・アーチェリー
・弓道
・サッカー
・バスケ
どれも複雑な動きを行うスポーツです。
そして1つのミスが命取りになるような場面が多く、心理的な原因は多く生まれやすいスポーツです。
サッカーでは特にPKでイップスになりやすいと言われ、流れの中ではゴールを量産しながらPKは苦手という選手もいます。
ゴルフはパッティングが一番多く、最初にイップスが生まれたのもゴルフのパッティングです。
テニスでは、サーブでのイップスが多く起こります。
特にセカンドサーブは確実に入れないと相手のポイントになるサーブですので、イップスになりやすいと言えます。
野球では送球全般がイップスになりやすいですが、打撃や捕球でも起こると言われています。
特に投手でデッドボールを当ててしまってからイップスになる、1塁への送球や牽制でイップスにあんるというパターンがあります。
マウンドから投げて外角・内角を投げ分けるコントロールがありながら、牽制でファーストに投げるコントロールがないというのは技術的には考えにくく、イップスではないかと推測できます。
バスケットボールはフリースローがイップスになりやすいです。
流れの中でのシュートは決まるのにフリースローが苦手という選手は多いです。
技術的には流れの中からシュートを打つ方が難しくても、フリースローの方が入らないというのは精神的な影響が大きいと考えられます。
イップスになったスポーツ選手
イップスになったスポーツ選手は、イップスが噂されていたり引退後に実は現役時代イップスだったことを告白する選手がいます。
つまり、誰がイップスなのかはっきり分かりません。
現役中に「私はイップスです」と告白するのはどう考えてもマイナスです。
それでも、「この選手はイップスでは?」というのは見ていて感じることもあります。
イップスになった選手や、イップスを克服したスポーツ選手、イップスが噂される選手としてはこのような選手が有名です。
<野球選手>
荒木雅博選手(中日)
井端弘和選手(元中日→巨人)
藤浪晋太郎投手(阪神)
松井稼頭央選手(西武→楽天)
田口壮選手(元オリックス)
内川聖一選手(横浜→ソフトバンク)
澤村拓一投手(巨人)
意外ですが、鉄壁の二遊間でゴールデングラブを連続で獲得したアライバコンビが2人ともイップスを抱えていたようです。
荒木雅博選手はイップスが原因で一時外野へコンバートされたようです。
松井稼頭央選手もメジャー時代に捕球のイップスがあったようで、エラーがきっかけのようです。
オリックスで活躍した田口壮選手もイップスで内野から外野へコンバート、内川聖一選手も元々ショートなど内野手で入団しましたが、イップスで外野やファーストへコンバートになったようです。
このように、イップスが原因でのコンバートはかなり多そうです。
もちろん、噂の域を出ないものもありますが、実際はもっと多いと思います。
ただ、これだけ超一流選手でも悩まされるのがイップスですので、決して「メンタルが弱い」で片づけられる問題ではありません。
また、気になるのが藤浪晋太郎投手です。
藤浪晋太郎投手は元々コントロールが良い方ではありませんが、危険球などが非常に多くなっています。
2016年は広島のレジェンド・黒田博樹投手の頭部付近に投げて乱闘寸前となり、2017年はヤクルト戦でバレンティン選手が退場となる引き金となりました。
この時は、山田哲人選手・バレンティン選手の頭部付近に投げた後に、畠山和洋選手にデッドボールを当てて乱闘となりました。
また、個人的には危険球よりもファーストへの悪送球にイップスの感じがします。
他にも巨人時代に澤村拓一投手がオープン戦初登板で1球目に危険球退場となり、その後復帰まで時間がかかっていることから投球イップスが考えられています。
阪神の青柳投手はファーストへの送球をワンバウンドで投げますが、これもイップスの対処方法の1つと思われます。
これだけの名選手たちでもイップスに陥ることがありますので、中学生や高校生がイップスになるのは珍しいことでも恥ずかしいことでもありません。
仮にイップスのような症状が出ても、まずはそれにしっかり向き合い対処することが必要です。
引退発表の宮里藍選手もパターがイップスになった?
2017年5月29日に、ゴルフの宮里藍選手が現役引退発表会見を行いましたしました。
宮里藍選手の引退理由については、肉体的な問題よりも精神的な問題の方が大きいようです。
その中で、宮里藍選手は「イップス」についても会見でコメントしています。
不振に陥ったこの時期、「パターがイップスみたいになってしまった」という。「イップス」とは一般に、アスリートが集中すべき局面で極度に緊張し、思い通りのプレーができなくなる状態をいう。「どうすれば立て直せるか分からなかった」とも明かした。
Jcastニュースより抜粋
宮里藍「パターがイップスみたいに」 引退の真因はグリーン上の不振女子プロゴルフの宮里藍(31)が2017年5月29日、東京都内で記者会見を開き、今季限りでの現役引退を決断した経緯を語った。苦悩が襲ったのは2012年シーズン。米国ツアーに本格参戦を始めて7年目ながら、目標としていた米国メジャー大会では未勝...
パターでのイップスが現役引退の理由という訳ではないですが、かなりイップスに苦しんでいた様子が伺えます。
史上初の高校生プロ、日本人初の世界ランキング1位など華々しい活躍をした宮里藍選手でもイップスは起こり得るということですので、改めてイップスの恐ろしさを物語っていると思います。
イップスの対処方法
イップスの対処方法としては、明確なものはありません。
だからこそ、多くの選手がイップスに悩み、時にイップスが原因で引退まで追い込まれることもあります。
イップスの克服方法としては、次のようなものが挙げられます。
・メンタルトレーニング
・カウンセリングなど心理療法
・フォームの矯正、改造
・薬物療法
メンタルトレーニングでは、リラクゼ―ション技法などが行われます。
ただ、これはイップスの直接的な解決というよりは軽減に近いと思います。
カウンセリングなどを通して、原因を客観的に理解し、そして認識を変えることでイップスを克服したという例もあります。
また、フォーム改造なども1つのイップスの対処方法です。
井端弘和選手はイップス気味になると、送球の際に腕の角度を変えて様々な形でボールを投げていたようです。
練習から色々なフォームを試し、イップスが危なくなった違う角度で投げるフォームに代えるなどの工夫で乗り切ったようです。
これがよくわからないイップスに対してすぐに出来る対処方法なのかもしれません。
同じ動きで脳が変化して感覚が混乱するという説に対しても、この対処方法が有効と言えます。
また、薬物療法はジストニアという運動障害が疑われる場合に行われるもので、イップスの為の薬などはありません。
このように、イップスの対処方法は原因がはっきりしない以上明確なものがありません。
様々なアプローチでイップスを克服する必要がありますが、イップスにならない為にあらかじめ様々なフォームで練習しておくというのが、現実的には一番有効なイップス克服法のように感じます。
また、イップスになると精神的にも疲弊していき燃え尽き症候群となる場合もあります。
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