サッカー・バスケ・ラグビー・バレーボールなど様々なスポーツで起こる膝の前十字靭帯損傷(断裂)。
スポーツ中に起こりやすい怪我の中では、前十字靭帯断裂は大怪我の部類に入ります。
膝前十字靭帯が断裂となれば全治は6か月以上かかり、膝内側側副靭帯損傷や内側半月板損傷などの合併損傷も加われば全治が9か月以上となる場合もあります。
そんな前十字靭帯損傷について、断裂時の手術や術後のリハビリなどについて解説しています。
膝前十字靭帯損傷(断裂)とは?
膝前十字靭帯損傷とは、膝関節にある靭帯の前十字靭帯を損傷する怪我です。
ただ靭帯が傷付くだけであれば膝前十字靭帯損傷、靭帯が完全に切れてしまった場合は膝前十字靭帯断裂の怪我となります。
膝には4つの主な靭帯があります。
それぞれ前十字靭帯、後十字靭帯、内側側副靭帯、外側側副靭帯の4つです。
この中で最も受傷しやすい靭帯は内側側副靭帯です。
つまり、膝の怪我で一番多い怪我は内側側副靭帯損傷と言えます。
前十字靭帯は内側側副靭帯に比べて負傷しにくいですが、重症度で言えば前十字靭帯損傷の方が重症です。
ただ、膝関節の怪我は合併損傷も多く、同時に複数の靭帯を損傷することも珍しくありません。
前十字靭帯損傷との合併損傷で多いのは、先程の内側側副靭帯損傷、そして内側半月板損傷です。
前十字靭帯断裂と内側側副靭帯損傷、内側半月板損傷の3つが同時に起こる怪我は大怪我ですがよく起こる怪我です。
この前十字靭帯断裂・内側側副靭帯損傷・内側半月板損傷の3つが同時に起こる怪我でのことを不幸の3徴候(アンハッピートライアド)と呼びます。
前十字靭帯断裂だけでも大怪我ですが、このアンハッピートライアッドはより大きな怪我と言えます。
前十字靭帯損傷の原因
膝の前十字靭帯断裂や損傷の怪我が起こる原因は、簡単に言えば膝が内側に強く入って捻られた時に起こります。
ただ単に膝が内側に入っただけでは簡単に前十字靭帯が損傷することはありません。
非常に強い力が加わった状態で膝が内側に入ると前十字靭帯損傷や断裂となります。
具体的には、ジャンプのあとの着地で膝が内側に入るとかなり強いストレスが前十字靭帯損傷に加わります。
この時に、相手選手と接触してバランスを崩しているとさらに強いストレスが前十字靭帯に加わります。
また、ラグビーなどでタックルを受けて転倒、サッカーでスライディングを受けて転倒など、自力でコントロール出来ていない状態で着地した際に膝が内側に入り強くひねられた際に前十字靭帯を損傷しやすくなります。
膝前十字靭帯損傷は1回の強い衝撃で起こる怪我ですが、その前に度重なる前十字靭帯へのストレスで微細損傷があるところに強い衝撃が加わると損傷や断裂に繋がりやすいと言えます。
つまり、元々膝が内側に入る動きのクセ(ニーイントウアウトknee-in-toe-outと呼ばれます)があって前十字靭帯にストレスが常にかかっていた状態で、ジャンプの着地や接触プレーでの転倒により強い負担がかかることで前十字靭帯損傷や断裂に繋がると言えます。
前十字靭帯損傷が起こりやすいスポーツとしては、サッカー・バスケットボール・ラグビー・アメフトなどのコンタクトスポーツや、バレーボール・テニス・ラクロスなどのジャンプやステップワークの多いスポーツが挙げられます。
膝前十字靭帯断裂の手術
膝の前十字靭帯断裂となった場合は、手術の適応となることが多いです。
前十字靭帯断裂があっても手術をしない保存療法という選択もありますが、膝崩れと呼ばれる症状も起こりますので手術が勧められることが多いようです。
ただ手術の是非は医者やトレーナーによっても見解が分かれるところではあると思いますので、一概に手術が正しい・保存療法が正しいとは言えないと思います。
前十字靭帯断裂の再建手術となった場合は、身体の別の部分の腱を移植して膝の前十字靭帯の代わりとします。
最近一番多いのは、太もも裏(ハムストリングス)の1つである半腱様筋腱を移植する手術です。
前十字靭帯再断裂となるケースもありますので、100%復帰が保証される手術ではありませんが、そもそも前十字靭帯断裂の時点で大怪我です。
それがまた元通りに近く動けるようになるのであれば十分やる価値のある手術と言えると思います。
ちなみに、その他の部位でも靭帯が断裂した時に他の部位の腱などを移植する靭帯再建手術は行われます。
有名なのが、ダルビッシュ有投手なども受けた肘の手術であるトミー・ジョン手術(肘内側側副靭帯再建手術)です。
前十字靭帯の再建手術について、専門医の解説です。
現在では、自分の組織を用いて再建する(自家腱移植)のが、世界的にもベストな方法とされています。当院で30年来主に行っている膝屈筋腱(ひざくっきんけん)を用いた関節鏡視下(かんせつきょうしか)再建術は、最小限の切開で大きな合併症もなく、術後の成績も安定しているため、有効な治療方法として確立されています。
膝前十字靭帯損傷|整形外科・スポーツ診療|順天堂医院
整形外科・スポーツ診療科|膝前十字靭帯損傷|順天堂大学医学部附属順天堂医院順天堂大学医学部附属順天堂医院 整形外科・スポーツ診療科「膝前十字靭帯損傷」についてご紹介します。順天堂醫院は、一貫して患者さまに何よりもまず、やさしく、安全で高度の医療を提供すべく努力しております。
大きな手術ではありますが、症例も多いのでかなり多くの臨床データがあります。
やはり自分の組織を利用した移植手術が現状ではベストな選択のようです。
膝前十字靭帯損傷(断裂)のリハビリ方法
膝の前十字靭帯断裂の再建手術を終えたら、リハビリが始まります。
これはスポーツ選手が競技復帰に向けたリハビリだけでなく、一般の人がまずは普通に歩けるようになる為のリハビリもあります。
日常生活を取り戻す為のリハビリと言えます。
つまり、スポーツ選手もリハビリの最初は走ったり跳んだりするリハビリではなく、普通に歩けるようになる為のリハビリからスタートします。
リハビリ方法としては、膝の曲げ伸ばしが出来るように膝の可動域訓練から始まります。
その後患部周辺の筋トレなどを経て歩行訓練となり、一般の方のリハビリはこれで大体終わりです。
スポーツ選手の場合はここから走る、飛ぶ、スクワット、ジャンプ動作などの基本的な動きを行います。
その後走るスピードや距離を上げていき、切り返し、ジャンプ・ストップ・減速など様々なフットワークの練習を行い、その後競技動作へと復帰していきます。
ただこの時に重要なのは、再度前十字靭帯を断裂や損傷とならないように今までの動きを変えることです。
前十字靭帯断裂となった場合は、大抵それまで前十字靭帯にストレスがかかる動きをしてきています。
つまり、再度前十字靭帯を損傷しやすい状態と言えます。
それを変えるべく、膝が内側に入らないように股関節や足関節のモビリティ・スタビリティのトレーニングや、スクワット動作の改善などを行います。
特に着地の動作が重要ですので、着地時に膝が内に入らないようにリハビリを行います。
膝前十字靭帯を断裂した主なスポーツ選手一覧
膝の前十字靭帯断裂は非常に大きな怪我ですが、よく見られる怪我です。
サッカー・ラグビー・バスケなど様々な競技で前十字靭帯断裂の怪我が起こっています。
ここでは、膝前十字靭帯断裂の怪我を経験しているスポーツ選手を紹介します。
膝前十字靭帯を断裂・損傷したことがあるサッカー選手一覧
山田直輝選手(浦和レッズ) 左膝前十字靭帯断裂
上里一将選手(コンサドーレ札幌)右膝前十字靭帯断裂
近賀ゆかり選手(INAC神戸)右膝前十字靭帯断裂
京川舞選手(INAC神戸)左膝前十字靭帯断裂
青山敏弘選手(サンフレッチェ広島)左前十字靭帯断裂断裂
宮市亮選手(ザンクトパウリ)左膝前十字靭帯断裂
水沼宏太選手(サガン鳥栖)左膝前十字靭帯部分損傷
石川直宏選手(FC東京) 左膝前十字靭帯断裂で手術 2005年に右膝前十字靭帯損傷
佐々木翔選手(サンフレッチェ広島) 右膝前十字靭帯断裂
稲本潤一選手(コンサドーレ札幌) 右膝前十字靭帯断裂
米本拓司選手(FC東京) 2010年左膝前十字靭帯断裂、2016年右膝前十字靭帯断裂で手術
梅崎司選手(浦和レッズ) 2016年左膝前十字靭帯損傷で手術 2009年には右膝前十字靭帯損傷
ディエゴ・ミリート選手(インテル) 左膝前十字靭帯損傷
クラウディオ・マルキージオ選手(ユヴェントス)左膝前十字靭帯断裂
※所属は前十字靭帯断裂・損傷当時
前十字靭帯断裂の怪我を負ったプロ野球選手
小久保裕紀選手(ダイエーホークス) 右膝前十字靭帯断裂
木村昇吾選手(西武ライオンズ) 右膝前十字靭帯断裂
5/31追記
西武ライオンズの若林楽人選手が左膝前十字靭帯損傷の怪我で登録抹消となったようです。
痛がり方を見ても明らかに軽症の怪我ではなさそうでした。
全治や手術の発表はまだありませんので復帰時期などは分かりません。
ただ、左膝前十字靭帯”損傷”(断裂ではない)なので手術を回避する可能性があります。
手術を回避すれば今シーズン中に復帰の可能性が残されますが、手術をすれば今季絶望の全治になるはずです。
また、再検査で半月板や内側側副靭帯も併せて損傷していることが分かるという場合もあります。これらの情報が出揃わないと復帰時期は分かりません。
まだ経過を見て治療方針を決めるということですが、今ある情報だけで考えても今シーズン中の復帰は難しい可能性が高そうです。
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